押見修造まとめ

WE ARE THE KUSO MUSHI

【ハピネス】ノラが嗅ぎ取った勇樹の「真っ黒な匂い」とは?【物語考察】

登場人物のおさらい

吸血鬼のノラ

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ノラに噛まれ吸血鬼化した岡崎誠

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 別の吸血鬼サクに襲われて吸血鬼化した勇樹

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16話「別離」のおさらい

負傷した岡崎誠と勇樹は助けを求めてノラの寝床に足を運ぶ。

「お前が助けてくれるって岡崎が言ったから来た」

「どうすりゃいい」

と質問する勇樹に対して、

突然、ノラは強烈なアッパーキックを繰り出し、倒れる勇樹に拳を畳み掛ける。

岡崎誠に言われて攻撃を中止するノラは、振り返って、

「こいつからは真っ黒な匂いがする」

「こいつといると、マコト、お前は破滅するぞ」

と意味深な発言をする。ノラの背後で立ち上がった勇樹は、

「おかあさん」

と呟いて反撃を開始、牙を剥いてノラに飛びつく。避け切れなかったノラの脛を齧り、肉を食いちぎる。倒れるノラの喉元に噛みつこうとするが、寸前で岡崎誠によって阻止される。

「戻ってきて、ぼくを助けてくれた勇樹くんに」

と岡崎誠は勇樹を諭す。

「うるせえ、おまえに何がわかる」

と勇樹は冷徹な返答ながらも攻撃を中止し、その場を後にする。 

 

ノラはなぜ勇樹を攻撃したのか?

その理由は、ノラが勇樹から嗅ぎ取った「真っ黒な匂い」にある。色を匂うとは、野生的な嗅覚を持つ吸血鬼にしかできない特殊な表現だ。ではその「真っ黒な匂い」とは何か?私の解釈はこうだ。

 

口唇サディズム期の固着

口唇サディズム期とは、19~20世紀のオーストリア精神分析ジークムント・フロイトの概念である。乳児の発達段階の一つであり、主に、生後0歳から2歳までの間を指す。授乳から離乳へと移行する期間にあたる。

口唇期に、母乳を飲む行為が慢性化すると、むしろ乳児は母親の乳房を「噛むこと」自体に満足を覚え始める。その快楽原理はサディズム的であり、これが口唇サディズム期と言われる所以である。

しかし、たとえ「母乳を飲む」行為にサディズムが含まれていたとしても、母親はその行為を受け入れなければならない。なぜか?それは乳児が栄養を摂取する貴重な手段であるからだ、というのは言うまでもない。

もっと重要なのは、このサディズム的な行為は、乳児が相手から基本的信頼感を得るための手段だということだ。乳房を吸うことや噛むこと、といった攻撃性を含んだ行為を相手に受け止めてもらえたならば、乳児は相手と自分の間に漠然と信頼感を確認する。反対に、授乳を拒否されたならば、乳児は外界との間に漠然とした隔たりを感じる。「自分は相手と一体になれない」という愛情の不能感である。

猫を飼ったことのある人であれば、この例は思いつきやすいだろう。親猫や兄弟猫の元で育てられた猫は、血の繋がりのない他の猫とも互いにグルーミングをし、社交的な関係を結ぶ様子を観察することができる。反対に、幼い頃から一匹だけで育てられた猫は、成猫になっても、他の猫と喧嘩ばかりしており、完全に打ち解ける様子を観察することができない。

すなわち、我々は幼い頃に「母乳を飲む」行為を通して、外界との基本的な信頼性を確認し、そこで得た経験は後年まで影響するのだ。

フロイトが言うには、口唇サディズム期に、母親との間に何らかのトラブルがあり、欲求不満を経験した乳児は、成長後、口唇サディズム期に固着する。

固着とは、後年になってもその時期に過剰なリビドー(人間のエネルギーの根源)が付与されたままの状態になることを言う。固着すると、その時期における本能的な衝動や欲求の充足方法、そして防衛機能などの特徴が後年も存続する。存続すると言っても、普段の生活上ではその特徴は抑圧され、隠されている。特徴が顕在化するのは「内外の困難な状況に出会うとき」であるとフロイトは言う。

 

口唇サディズム期に固着する人物の特徴

・攻撃性

・信頼性の不能

 である。

「攻撃性」というのは、乳房を噛むサディズム性が固着した特徴である。

「信頼性の不能」というのは、愛情を正常に確認できなかったために固着した特徴である。それは根本的に何人たりとも信頼できないという懐疑的な性格であったり、逆に誰か自分と信頼関係を結んでくれる相手を求め続けるという依存性パーソナリティという特徴であったりする。

 

口唇サディズム期の匂い

前書きが長くなり申し訳ない。

詰まるところ、ノラが勇樹から嗅ぎ取った真っ黒な匂いとは、口唇サディズム期の匂いである。その証拠は幾つもある。

 

勇樹の依存性パーソナリティ

勇樹は

  • 「どうすればいい」
  • 「助けてくれ」

という台詞をしばしば口にする。

勇樹は常に誰かに助けを求める。

岡崎誠に、ノラに、彼女の奈緒に、そして桜根に。

ここから、勇樹は依存性パーソナリティであることが分かる。つまり、勇樹は口唇サディズム期の特徴である「信頼性の不能」に値する「依存」を抱えているのだ。

さらには、岡崎誠への「うるせえ、おまえに何が分かる」という台詞から、根本的には相手を信頼できない懐疑的な性格、という意味での「信頼性の不能」も確認できる。

 

勇樹の攻撃は「噛みつき」

ノラに反撃した際もそうだった。

奈緒の家族を攻撃する際もそうだった。

吸血鬼化する前はコンクリート片でサクを殴っていた。

「噛みつき」は口唇期における母親の乳房を噛む行為の固着である。

フロイトは口唇サディズム期を食人的であるとも形容したが、まさにこれは勇樹にあてはまる。

 

勇樹は母親からネグレクトされていた

第14話「発覚」における回想から、勇樹は幼児期(口唇期)に母親と何らかのトラブルを抱えていたことが分かる。上で述べたように、口唇期にトラブルを抱えた子供は口唇期に固着する。

 

勇樹は口唇期サディズム期に固着している

真っ黒な匂いについては以上である。

ノラが「こいつといると、マコト、お前は破滅するぞ」と言った意味も、口唇期サディズム期の固着する人物の特徴に由来すると考えている。

それに関しては、またの機会に説明しよう。